中小企業の経営者や小規模事業者の場合、資金調達を滞りなく実施することが重要です。資金調達を実施する場合、金融機関などからの融資が一般的ですが、経営者自身が連帯保証人になる必要があるケースもあります。
そのような中、2024年3月15日から、中小企業の法人が特定の条件を満たした場合、保証料率の引き上げを条件に、保証人なしを選択できる「事業者選択型経営者保証非提供制度」を利用できるようになりました。ここでは、経営者保証なしを選択可能な信用保証制度がどのようなものなのか、要件や保証料率、対象となる保証などを解説します。
目次
信用保証制度とは、中小企業や小規模事業者が金融機関から融資を受ける際に、経営者個人が会社の連帯保証人となることを指します。本制度は、戦後の高度経済成長期に広がりました。
経営者保証のメリットは、金融機関が企業に対して資金を貸しやすくなることが挙げられます。個人保証があることで、事業が失敗した場合でも融資された資金の返済が容易になるためです。
経営者保証とは、企業が融資を受ける際に、経営者自身が個人的な責任を持って返済を保証することです。しかし、この経営者保証には、以下のような問題点があります。
経営者保証は経営者の個人資産を担保にするため、ビジネスがうまくいかない場合、経営者の個人資産が差し押さえられる可能性があります。そのため、経営者の家族にも影響を及ぼす可能性が高いのはデメリットです。
経営者は、会社の負債だけでなく、個人的な負債も負うことになります。そのため、経営者にとって大きな精神的、金銭的負担となるでしょう。
経営者保証があると、経営者はリスクを取ることをためらう可能性が高いです。その結果、新しいビジネスチャンスを逃す可能性があり、企業の成長を妨げる要因になりえます。
経営者保証があると、事業承継が困難になる可能性があることもデメリットです。新たな経営者が、前経営者の借入金の保証人になることをためらうかもしれません。
経営者保証がない信用保証制度とは、具体的にどのような制度なのでしょうか。ここでは、経営者保証なしを選択可能な信用保証制度の概要や登場した背景、要件、保証料率などを解説します。
経営者保証を提供しないことを選択できる信用保証制度とは、正式には事業者選択型経営者保証非提供制度(横断的制度)と呼びます。事業者選択型経営者保証非提供制度は、中小企業が一定の条件を満たす場合に、信用保証料の上乗せにより経営者保証を提供しないことを選択できる制度です。本制度は、他の保証制度と併用できます。
事業者選択型経営者保証非提供制度(横断的制度)が設立された背景には、以下のような理由があります。
経営者保証は、中小企業が金融機関から融資を受ける際に、経営者個人が会社の連帯保証人となることを求めるものでした。しかし、これにより経営者個人の財産や信用がリスクにさらされることとなり、経営者にとって大きな負担となっていました。
経営者保証があると、経営者は個人的なリスクを恐れて大胆な事業展開や投資を行いにくくなります。また、事業が困難な状況に陥った場合でも、個人保証があることで早期の事業再生が難しくなり、円滑な事業承継にも支障をきたすことがあるのも課題でした。
上記問題を解決し、中小企業がより柔軟に事業を展開できるようにするため、全国銀行協会と日本商工会議所が「経営者保証に関するガイドライン」を策定しました。同ガイドラインは、経営者保証の契約時および保証債務の整理時等における課題に対する解決策の方向性を取りまとめているものです。具体的には、経営者保証を解除するかどうかの最終的な判断は金融機関に委ねられています。
また、同ガイドラインは「中小企業、経営者、金融機関共通の自主的なルール」として位置づけられており、法的な拘束力はないものの、関係者が自発的に尊重し、遵守することが期待されているのが特徴です。
さらに、経済産業省は金融庁・財務省と連携し、経営者保証に依存しない融資慣行を確立するために「経営者保証改革プログラム」を策定しました。同プログラムでは、スタートアップ・創業、民間金融機関による融資、信用保証付融資、中小企業のガバナンスの4分野に重点的に取り組むことを目指しています。
経営者保証を提供しないことで、中小企業が金融機関との信頼関係を築き、透明性の高い経営を行うことが促進される効果が期待されます。その結果、金融機関は経営者個人に依存せずに企業の信用力を評価し、融資を行いやすくなるでしょう。
以上の理由から、事業者選択型経営者保証非提供制度が設立されました。本制度は、中小企業が成長しやすい環境を整え、経営者が個人のリスクを抑えながら事業を展開できるようにすることを目的としています。
事業者選択型経営者保証非提供制度を利用するためには、以下の条件を満たす必要があります。
・過去2年間において、決算書等を申込金融機関の求めに応じて提出していること ・直近の決算において、代表者への貸付金等がなく、役員報酬等が社会通念上適切な範囲を超えていないこと ・直近の決算において債務超過でない(純資産の額がゼロ以上である)こと、または直近2期の決算において減価償却前経常利益が連続して赤字でないこと ・上記について継続的に充足することを誓約する書面を提出していること ・中小企業が、保証料率の上乗せにより保証人の保証を提供しないことを希望していること |
事業者選択型経営者保証非提供制度の保証料率は、以下のように設定されています。
・直近の決算において債務超過でなく、かつ直近2期の決算において減価償却前経常利益が連続して赤字でない場合:信用保証協会所定の保証料率に0.25%上乗せ ・直近の決算において債務超過でない、または直近2期の決算において減価償却前経常利益が連続して赤字でないのいずれか一方を満たす場合、または法人の設立後2事業年度の決算がない場合:信用保証協会所定の保証料率に0.45%上乗せ |
以上のように、事業者選択型経営者保証非提供制度は、中小企業の資金調達において重要な役割を果たしています。
具体的には、以下の信用保険が付保された保証が、事業者選択型経営者保証非提供制度の対象です。
・無担保保険 ・公害防止保険 ・エネルギー対策保険 ・海外投資関係保険 ・新事業開拓保険 ・事業再生保険 |
ただし、法令の定めるところにより保証人を徴求しない保証は本制度の対象外です。詳細な情報や手続きについては、金融機関または最寄りの信用保証協会に問合せる必要があります。
事業者選択型経営者保証非提供制度は、中小企業などが経営者保証なしで融資を受けるための制度です。経営者は特定の条件を満たすことで、保証料率の上乗せを条件に保証人を提供しない選択肢を得られます。 本制度は、中小企業の成長を促進し、経営者のリスクを軽減する目的で設立されました。資金繰りを行う際、ぜひ有効活用してください。
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